【見解】2005/12/08
『中教審「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)」について』
2005年12月 8日 全日本教職員組合 中央執行委員会
中央教育審議会は、12月8日「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)」をまとめました。掲げられた理念と、財政的基盤に裏付けられない制度改革構想とのギャップを最大の特徴とするこの答申は、障害を持つ子どもたちの教育の大きな後退につながる危険性を内包するものです。私たちは、全国の父母・教職員・地方行政担当者・関係者のみなさんに、障害児教育の後退を許さず、すべての子どもたちの教育の前進のための共同を、あらためて呼びかけます。
日本の教育行政は長い間、障害児学校・障害児学級に在籍する者以外を、障害児と認定せず特別な教育の枠組みから排除してきました。近年、通級による指導、認定就学制度など一部枠組みの拡大を図ってきたものの、LD・ADHD児などが今なお特別な教育の対象児として認可されない状況の中で、子どもにとっても、父母にとっても、学級運営にとっても大変な苦しみが放置されてきました。
このような中、文科省が、通常の学級に約6%の割合でLD等の子どもたちが在籍している可能性を指摘し、「特別支援教育」の名で、従来の障害種別にLD・ADHDを加えることや、1人ひとりのニーズを把握し適切な支援を行なうことなどの理念を表明したことは、大きな期待をもって受け止められ、相応しい制度改革が求められていました。
ところが今回出された答申は、この期待を裏切るものになりました。答申の制度改革の底流に色濃くにじみ出ているのは、「障害児教育の予算削減」と「既存の人的・物的資源の再配分」です。制度改革の内容として、第1に「障害種別を超えた学校制度」を示しています。これは現行法令における各都道府県の盲・ろう・養護学校設置義務を規制緩和するものです。すでに各地で障害児学校の統廃合計画が相次いでいます。地方の財政状況によっては一層の統廃合が促進され、障害種別の教育の専門性が後退してしまう危険をはらんでいます。また、特別支援学校(仮称)への制度変更にともなう標準法「改正」の中で、学級編制と教職員配置の基準が大きく後退させられてしまうことも危惧されます。
第2に、障害児学校は地域の特別支援教育の中核的役割を担うとされ、「センター的機能を関係法令等において明確に位置付ける」との方向が出されました。教職員が配置されるならば、本来積極的側面をもつであろう障害児学校のセンター的機能も、定数配置がまったくない中では、障害児学校に在籍する子どもたちの教育後退に直接つながります。すでに、一つの学校で20名前後の教員が在籍する子どもたちの指導から剥ぎ取られ、センター的機能や中間的管理業務にまわるなどの異常な先行事例がいくつもの都府県で見られます。
第3に、答申は、通級による指導の対象をLD・ADHDに拡大すること、指導時間数の制限を緩和することを示しました。これも本来積極的な意義をもつものです。しかし、現在でも1人で43名もの通級児童を担当している地域もあるなど、通級による指導を担当する教員は圧倒的に不足しています。答申が示す担当教員の専門とする障害種別からの「弾力的な運用」などではなく、教職員定数の計画的な配置こそが求められています。
第4に、将来的に障害児学級をなくし「特別支援教室」とすることを基本方向として示しました。当面、第1段階として交流・共同学習を促進し、特殊学級担任が通常学級在籍LD児などを指導するなど「担当教員の活用」、「巡回による指導」などの制度見直し方向を打ち出しています。特別支援教室の形態として、「ほとんどの時間」指導を受ける形態を含め、3つの形態が例示されましたが、これも担当教員の配置がなければ絵に描いた餅でしかありません。
また、弾力的運用の名で、障害種別毎の障害児学級設置が後退することも危惧されます。
第5に、教員免許制度の特別支援学校教諭免許状への見直しと、特別支援学校教員採用にあたって保有を前提とすることなどが示されました。示されたカリキュラム案は、全障害種別への対応を前提とし、広く浅くが目立ちます。子どもの発達と人格の完成をめざす教員の育成という観点から、子ども理解と教育の基礎理論にかかわるカリキュラムを充実すること、障害児学級や通常学級担任を含め障害児にかかわるすべての教員を対象とすべきこと、現職教員の免許取得のための十分な条件整備を行うことなどが必要だと考えます。また免許状の違いが身分や賃金の格差に結びつくことがあってはならないと考えています。
これら、制度改革にともなう教職員配置について、国としての財政的な基盤がなんら確立されていないことは重大です。答申に向けた論議の中では、「特別支援教育に係る制度的な見直し等を進めるに際して」条件整備をすすめる国の役割に関する記述が一層後退してしまいました。この背景に、義務教育費国庫負担制度の縮小・廃止への圧力が一段と強まり、経済財政諮問会議、財政制度等審議会などが、相次いで「教職員については、児童・生徒の減少に伴う自然減を上回る純減を確保するよう検討する」「新たな定数改善計画は策定すべきでない」などの方針が示したことなど、新たな教職員定数配置に対するとりまく状況があります。
新たな制度を法令上に位置づけるとしながら、教育条件整備にかかわる予算的な保障をともなわない今回の答申の方向は、現在の障害児学校や障害児学級担任・通級指導担当教員の活用による「既存の人的・物的資源の再配分」と、障害児学校や寄宿舎の統廃合という障害児教育リストラを、一層すすめるものとなることでしょう。またボランティアや臨時採用教職員に依拠しなければ教育が成り立たない状態の激増など、限られた予算の中での地方自治体の責任を増大させ、教育の貧困化につながらざるを得ないでしょう。それは、「子どもたちのいのちとひとみ輝く教育を」と、父母・教職員・教育行政の熱い思いに支えられて築かれてきた日本の障害児教育の根本を壊し、豊かに伸びようとする子どもたちのねがいを踏みにじるものとなるでしょう。
推定60数万人とも言われるLD・ADHD・高機能自閉症児の教育を含めた、新たな大事業を、地方自治体、学校、教職員、そして現在障害児教育を受けている子どもたちの負担と犠牲の中ですすめることはできません。
わたしたちは、制度改革にあたっての国の財政的責任を求めます。また、障害児教育の後退につながらぬよう、関連法改正などにおける慎重な検討を求めます。
小泉「構造改革」による障害児教育の貧困化ではなく、憲法・教育基本法の具体化としての障害児教育の発展を求め、すべての子どもたちにゆたかな教育を実現するために、子どもたちのしあわせをねがうすべての人々とともに、全力でたたかうことを表明します。
▲ページトップへ
|