全教 全日本教職員組合
HOME

3.義務教育費国庫負担制度における「総額裁量制」の導入
(1)「総額裁量制」の内容

 前述の通り、義務教育費国庫負担制度見直しへの対案として文科省が提起した「総額裁量制」は財務省との折衝を経て、2004年度政府予算案に盛り込まれた。2003年12月、石原主計官「平成16年度文教及び科学技術予算のポイント」は、「国の関与を縮小し、義務教育に関する地方の裁量・自由度を大幅に拡大する観点から、義務教育費国庫負担金について『総額裁量制』に基づく予算措置を講じる」とのべている。
 その直前まで財務省はこれに反対であったから、決着まで難航したのであろう。ちなみに、その直前の11月26日、財政制度等審議会「平成16年度予算編成等に関する建議」は、「現行の国庫負担制度を改め、平成16年度予算編成において、『基本方針2003』を踏まえ、負担金の交付金化を実現すべきである」とし、合わせて人材確保法や義務標準法についても「抜本的見直しを図ることが不可欠」「国庫負担対象経費の整理合理化」「現在の教職員定数改善計画についても見直し」が必要などとのべていた。「交付金」とは、国の義務的負担ではなく奨励的補助金の一種であり、負担金に比べ財政事情などで抑制・削減されやすい。総務省は、所管する地方交付税の拡大となる全額一般財源化を主張していた。
 義務教育費国庫負担金の「総額裁量制」は、交付金や一般財源化より財源措置が確実であり、文科省の一応の”戦果”であったが、教育関係者には不満の残る制度であった。ちなみに、「教育関係22団体」(日本教職員組合、日本PTA全国協議会、全国都道府県教育委員会連合会、校長会ほか)、全日本教職員組合、その他の団体は、国庫負担制度の堅持をこぞって主張した。全国市町村教育委員会が2004年2月20日に公表したアンケート(中間報告)によれば(3204市町村の65.2%、2089市町村回答)、「義務教育費国庫負担制度は必要だと思うか」との質問に対し、2870(89.6%)の市町村が「必要」、240(7.5%)が「必要だが改革が必要」などと答えている。「総額裁量制」については「評価できる」10.1%、約1割にとどまり、「ある程度評価できる」が71.8%であった(『デーリー東北新聞』3月9日)。
 「総額裁量制」とは、義務教育費国庫負担法を前提とし、義務教育諸学校教職員の給与費について、国が1人当たりの給与を定額として標準定員分の総額を算定し、その半分を都道府県に交付し、国の定める最高限度内で教職員の給与や定数をその裁量に委ねる制度であり、文科省の説明資料(2003年11月)によれば次のように説明される。
 2つの柱;〔1〕「国立学校準拠制の廃止に伴い、地方が給料や諸手当の種類や額を主体的に決定する(第156回国会で法律改正済み)」〔2〕「負担金総額の範囲内で給与額や教職員配置を都道府県の裁量に委ねる」
 3つの前提;〔1〕「都道府県の教職員給与の実支出額の原則2分の1を国庫負担」〔2〕「標準法により、各都道府県ごとに必要な数の教職員を確保」〔3〕「人材確保法及び教員の職務と責任の特殊性に基づく給与水準の確保」
 3つの効果;〔1〕「負担金総額の範囲内で給与と定数について地方の裁量が大幅に拡大」〔2〕「地方の工夫により、教職員の能力や実績に応じた給与の支給が可能」〔3〕「大幅な事務の簡素化が図られる」

(2)「総額裁量制」の問題点
 「総額裁量制」は、義務教育費国庫負担制度見直しへの代替案であり、財源の安定的確保や自治体の負担金使用の裁量などのメリットを持つ。しかし、地方財政縮減のための「三位一体改革」の特質から生ずる限界、問題点を免れない。新聞社の調査によれば、2004年度にそれを利用しない都道府県が36にのぼる実態も、この制度の難点を示している(「朝日新聞」2004年10月15日)。
A.「40人学級」前提の財政抑制策
 その問題点の第1は、「40人学級」を前提とする国の財政支出抑制策であり、少人数学級実現への国の責任を放棄し、その前進を阻むことである。しかも、それは義務教育費国庫負担制度の縮小・形骸化、その廃止への過渡的形態とみられており、「構造改革」のもとで、今後、総額が縮減されることは必至であり、拡充の可能性はない。
 「40人学級」を下回る少人数学級への国民の要求は強く、第7次(高校第6次)教職員定数改善計画(2001〜2005年度、小中高計3万3918人改善増)が、「40人学級」前提にもかかわらず、そのもとで少人数学級を実施する都道府県は、2001年度10、02年度22、03年度30、04年度42(義務制で未実施は東京、石川、岐阜、香川、佐賀)と急増し、市町村レベル(志木市、犬山市等)にも広がっている(4)。その規模は、2004年度、山形県(小学校33人)、長野県(小学校30人)などを除き、「40人学級」を多少下回る程度の部分的改善にすぎない。「総額裁量制」は、「40人学級」前提の予算措置であり、このような国民的要求の少人数学級を財政的に抑止する点で限界がある。
【註:文部科学大臣・中教審会長とも2006年度以降の「30人学級」実施を視野に、中教審で審議することを言明(05年3月29日、参院文教科学委員会)】
 ※全教作成「2005年度少人数学級を実施している自治体況」(日本地図)

B.標準法の弾力化と学級規模、教職員定数・待遇の都道府県格差拡大
 第2の問題点は、標準法の弾力化に伴う学級規模、教職員定数・待遇の都道府県格差拡大の問題である。
 義務制標準法(「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」)は、1958年年5月1日、公布され、同年度施行された。同法は、都道府県の小中学校の学級編制基準が準拠すべき国の標準(同学年編制40人)を定め、都道府県の教員定数は、学校の学級規模ごとの乗数(例:小学校18学級の場合1.2)を掛けて算定した人数の合計を基本に、その他の加配等を加えた人数の総計とするなどを規定している。
 「総額裁量制」に先行、または並行して、地方分権改革の一環として標準法の弾力化がすすめられ、学級編制や教職員定数・配置・待遇の地方裁量が拡大した。標準法の弾力化の現状は、その改正条文や文科省資料によれば次の通りである。
 都道府県は、学級編制について国の標準である40人を下回る人数を児童生徒の実態等に応ずる「特別」の基準としてばかりでなく、「一般」的基準としても定めることができる。教員定数の一部を非常勤講師等に換算したり(「定数くずし」)、加配教員(チームティーチング、少人数集団指導等)を一般定数に含め、少人数学級にも振り替えることができる。教職員定数を市町村ごとに配分し、市町村が都道府県と協議・同意のうえ独自の学級編制を行うこともできる。さらに、2006年度には、学級編制「標準」の「最低基準」への変更、定数の算定基礎の学級編制基準から児童生徒数への変更、などが予定されている。
 こうして自治体レベルの少人数学級の法的可能性は拡大したが、同時に都道府県の財政力格差を背景に、学級規模、教職員の配置が多様化し、格差が拡大し、教育の機会均等上、無視できない状況が広がることになる。
【註:標準法「弾力化」の経過
 標準法「弾力化」の経過と内容は以下の通りである。
〔1〕1998年9月;中教審答申「今後の地方教育行政の在り方について」(5)
 学級編制・教職員定数については国の標準は財政措置に必要な教職員の算定基準とし、自治体裁量による学級編制や教職員定数を容認(国の標準を「下回る人数」、標準法6条等の見直しなど)、非常勤講師の報酬の国庫負担化、国の補助金の見直しや基準の弾力化、市町村の学級編制の主体的判断の尊重と標準の弾力化・許可制の事前協議制:届出制への転換の見直し(法5条)。
〔2〕1999年7月:地方分権一括法
 標準法5条改正(市町村の学級編制の都道府県の許可制から事前協議・同意制へ)。
〔3〕2000年5月:文科省・協力者会議報告「今後の学級編制及び教職員配置について」(6)
 「都道府県は…教職員定数全体を活用し…国の定める標準を下回る一律の学級編制基準とすること、…低学年と中高学年別、地域の実態等に応じて学級編制基準を定めること等を可能とする必要がある」。
〔4〕2001年3月:標準法等改正
 新規規定は、都道府県の学級編制基準の標準の特例として、「児童又は生徒の実態を考慮して特に必要があると認める場合、この項本文の規定により定める数を下回る数を…基準として定めることができる」(3条)、加配措置として、「少数の児童若しくは生徒により構成される集団を単位として指導が行われる場合」(7条2項)、教職員定数の短時間勤務教員・非常勤講師への換算(17条、同時に市町村立学校給与負担法1条改正)等追加。
〔5〕2003年4月1日:標準法関係通達
 特例加算の一部の「児童生徒支援加算」への統合、都道府県教委の学級編制の「一般的な基準として標準を下回る数の基準」の設定、同教委との協議・同意に基づく「市町村別の教職員の範囲内」での「個別の学校ごとの事情」に応じた学級編制(境界学級対応等)。
〔6〕2003年11月21日:文科省の2004年度方針
 都道府県教委が定める研究指定校加配の少人数学級加配への振り替え(事務連絡に予告)、加配教員の少人数学級への振り替え
〔7〕2005年度:標準法改正・2006年度実施(予定)
教職員定数の算定基礎の学級編制から児童生徒への変更、学級編制「標準」の「最低基準」への変更、加配教員(03年度4.8万人;少人数指導3万人、児童生徒支援0.9万人研修等支援0.9万人)の定数への参入】

 「総額裁量制」は、標準法の弾力化と一体であり、国の「40人学級」基準と少人数学級を求める住民の強い要求との狭間で、教職員定数と学級規模の自治体格差が広がり、教職員の一層の多忙化・長時間勤務、「合理化」(学校統廃合など)、臨時教員の乱用、少人数学級の停滞などが避けられない。一般定数と加配定数との境がなくなれば、逆に一般定数の「習熟度度指導」への振り替えが国の方針・指導のもとで助長されよう。文科省説明資料によれば、定数の地方裁量の大幅拡大の例として、「非常勤講師・退職教員再任用の活用や外部人材の導入、習熟度別の少人数指導、40人を下回る少人数学級などの一層の促進」をあげており、少人数学級の優先順位は低い。
 特に「習熟度別指導」への加配定数の配置強要は、「総額裁量制」下の統制問題として看過できない。加配教員定数4.8万人は、公立小中学校教員総数64.8万人(2003年度)の7.4%に相当し、全国の公立小学校の1学級36人以上の学級数4.8万と偶然にも同じ規模の数である。その全員を小学校の35人以下学級の解消に当てれば、ほぼ100%、全国一斉に「35人学級」が実現し、中学校を含め各自治体でそれを活用すれば、少人数学級を大きく前進する。
 しかし、2003年12月26日の学習指導要領改正では、中学校に加え小学校にも習熟度別指導を導入した。文科省調査によれば、習熟度別指導の2003年度実施状況は、小学校6年64.3%、中学校59.1%にのぼり(文科省「公立小・中学校教育課程実施状況調査(平成15年度)」)、それ以後、さらに実施率が高まることは必然である。

C.教職員給与の国立学校準拠主義の廃止と都道府県の独自給与、給与格差の拡大
 第3の問題点は、教職員給与の国立学校準拠主義の廃止と都道府県の独自給与、給与格差の拡大である。
 「総額裁量制」の柱のひとつは「国立学校準拠制の廃止」であり、それは教職員給与の全国均等的保障、ナショナル・ミニマムの廃止を意味する。公立学校教員の給与は、国立学校のそれに準拠するとの規定(教育公務員特例法25条の5)は、「構造改革」のもとで、国立大学の法人化と教員の身分の非公務員化に伴い、2004年度に廃止された。
 公立学校教員の給与は、都道府県の独自体系に移行し、それぞれの財政能力・事情、給与政策、それを反映した勧告等に基づき、条例に規定され、支給される。給与の都道府県ごとの「独自性」が強まり、その水準の抑制、格差拡大、給与体系の多様化、能力主義給与の導入・強化などがすすむであろう。
 文科省説明資料は、その例として「都道府県の主体的な判断で給与を決めたり、教職員の能力や実績に応じて昇給、勤勉手当の額を増減」することをあげている。閣議決定「基本方針2003」(2003年6月27日)は、「平成18年度に実施される予定の公務員改革(能力・業績を適正に評価し、処遇に反映)と歩調を合わせた教員給与の一層の見直しを進める中で、教員の一律処遇から、能力等に応じた処遇システムへの転換に向けた検討を行う。」とのべている
【註:公務員制度改革法案の今国会提出は見送り。人事院「給与構造の基本的見直し(素案)」(2004年11月)、その説明(05年3月)は、俸給5%引き下げ、等級格差拡大、昇給カーブのフラット化、勤務実績による昇給、等を提起し、8月勧告に反映へ】。
 東京都等で実施されている教員の人事考課・主幹制と給与との一体的制度化や諸外国に見られる「優秀教員」制などが、2006年度前後から全国にひろがるであろう。自治体の「独自性」は、真の独自性というより、国の方針の枠内での先取り、忠誠競争の様相を呈すると思われる。
 また、限度政令の改正により、財務省裁量で給与低額化、その定額による負担金打ち切り制となり、自治体の平均を上回る改善は財政面から抑制される。
 人確法等の法律も歯止めとはなりえないであろう。人確法(「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」、1974年2月2日に公布、施行)は、「すぐれた人材を確保」する(1条)ことを目的に、「義務教育諸学校の教職員の給与については、一般の公務員の給与水準に比較して必要な優遇措置が講じられなければならない。」(2条)と規定している【当時、30%程度の優遇論】。教職給与特別措置法(「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」、1971年5月28日公布、翌72年1月1日、施行)は、「教育職員の職務と勤務態様の特殊性に基づき」(1条)、俸給(給料)月額の4%の「教職調整額」を支給し、超過勤務手当・休日給を廃止するとともに、それらを命じない原則を規定している。給与法(「一般職の職員の給与に関する法律」)は、「義務教育等教員特別手当」等を規定していた(2003年度まで)。当面、これらの給与関係法は、踏襲されるが、形骸化に向かうであろう。
 実態的にみても人確法の効力は弱体化している。ちなみに、平均給与(給料と諸手当の月額)は、小中学校教員(平均年齢42.7歳)105.5、一般公務員(平均年齢42.3歳)100.0であり、その給与差5%程度は学歴構成などを考慮するとさらに縮まり、消滅しているのが実態である(総務省「平成14年度地方公務員の給与の実態」)。 
 教職員の勤務条件について労使対等の原則で決定する制度・慣行(ILO・ユネスコ「教員の地位に関する勧告」)の欠如した日本では、自治体の裁量は、行政当局の無責任な施策の横行となりかねない。
 教員は、「全体の奉仕者」としての使命を自覚し、職責の遂行に努めることが責務とされ、そのために教員の身分尊重、待遇適正が、政府の法的義務とされている(教育基本法6条)。教職員の身分や待遇は、教職員が個人として人間らしい生活を営むための勤務条件であるとともに、子どもの学習権保障のための公的な教育条件であり、そのあり方、とりわけその全国的基準は、教育の本質や条理に即し、研究の成果を踏まえ、教職員団体との協議・合意のもとに、民主的・科学的に決定されなければならない。そのような過程、観点、しくみを欠く「総額裁量制」の唐突な実施は、教育条件整備に新たな混乱と停滞をもたらすことになろう。

▲ indexページへ戻る  ▲ ページトップへ戻る

〒102-0084 東京都千代田区二番町12-1 全国教育文化会館3階 TEL:03(5211)0123 FAX:03(5211)0124
Copyright(c)2005 全日本教職員組合 All rights reserved.